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Abstract.

基調講演

13:10 ー 13:40

多胡 香奈子 「農耕地土壌における物質の動態と微生物の機能」

微生物は、海洋、地下圏、土壌など地球上のさまざまな場所に生息し、地球規模の物質循環や環境浄化の役割などを担い、生態系を支えている。特に農耕地では、食糧の安定生産のために肥料や農薬が投入されることで微生物が刺激され、温室効果ガスの発生ほか様々な環境問題が引き起こされている。そのため農耕地の土壌微生物の生態を対象とした研究は、肥料や農薬が微生物群集に与える影響や汚染環境で機能する有用微生物に着目することが重要である。しかし実は、微生物が環境へ適応するプロセスを明らかにするために適したモデルでもある。本講演では農耕地における土壌微生物の機能と物質動態について自身の研究を紹介しながら、土壌に生きる微生物のたくましさ、しなやかさ、面白さを皆さんと議論したい。

13:40 ー 14:10

中岡 慎治  「土壌微生物生態系の群集機能解析とデザインを目指した数理科学的手法の活用」

発表者は数理科学を専門とするが、これまで微生物生態学者や群集生態学者と交流をもつ機会があり、分野横断的なアイディアを数理科学的手法で集約して取り組む活動に関わってきた。たとえば、生態系を模倣し創ることで生態系を制御する枠組み (エコ+ミメティクス) の構築や、微生物生態系や機能の保全に介入を含めた数理科学の理論を発展させるため、共同研究等を通じて少しずつ進めている。

 本講演では、発表者の研究を中心に紹介し、数理科学手法やインフォマティクスを用いた分析を活用した研究について、話題提供を行う。具体的には、数理モデルを活用した農薬分解菌の栄養共生に関する研究、16S などマーカー遺伝子もしくはショットガンメタゲノムデータの探索的データ分析、MinION などロングリードシーケンサーを用いた土壌や極限環境微生物の群集構造・系統解析に数理モデルを組み合わせた研究計画について紹介したい。

ワークショップ

14:20 ー 14:45

増田 曜子  「土壌微生物の隠された生態を明かすメタトランスクリプトーム解析とその応用」

メタゲノム解析は環境中に存在している微生物群集や機能遺伝子の詳細を、メタトランスクリプトーム解析はその中でも活性の高い微生物群集や発現している機能を明らかにする手法である。我々は優れた持続的作物生産システムである水田土壌のメタトランスクリプトーム解析を行い、水田土壌におけるメタン代謝や還元的窒素変換に実際に関与している微生物群を明らかにした。さらに、同解析によって知見を得た窒素固定を担う新たな細菌群について分離培養しその窒素固定能を実証するとともに、それらの土壌における窒素固定活性を検証した。現在は、実際の水田土壌において新たな窒素固定細菌群の活性を増強するという低環境負荷型の水稲生産への応用に取り組んでいる。本発表では、このような我々の研究ついて紹介し、メタゲノムおよびメタトランスクリプトーム解析から物質循環研究への展開と応用について議論したい。

14:45 ー 15:10

松岡 俊将  「土壌微生物の群集構造と植物成長の関係を探る」

微生物は、高い系統分類学的な多様性を持ち、有機物分解や他の生物への共生・寄生などを通じて生態系機能の駆動者として生態系を構成している。近年のDNA解析技術の発展と普及に伴い、微生物の分類学的多様性の時空間パターンやその創出要因に関する知見は急速に蓄積が進んでいる。さらに、微生物群集と同時に個別の生態系機能を測定することで、微生物群集と生態系機能の関係性の推定・評価も行われてきている。環境・微生物群集・生態系機能の関係を解きほぐすには、野外観察や操作実験など様々なアプローチにより、複数の空間・時間スケールの情報を集めていく必要がある。本講演では、微生物群集と生態系機能の関連を探った研究例として、野外観察と植物培養実験結果を紹介しながら、どのような研究アプローチ・デザインによって何をどのくらい知り、予測し、コントロールできるようになるのかを議論したい。

あと、あんまり関係無いけど、最近取り組んでいる河川水を用いた菌類多様性モニタリング手法について紹介したい。

15:10 ー 15:35

美世 一守  「リン循環の土壌微生物学 — 群集構造解析から分かること、分からないこと」

土壌中には有機態・無機態の様々な形態のリンが固定されており、それらを可動化する土壌微生物群集を解明することは極めて重要である。ところが、リンの可動化に寄与する酵素や遺伝子は極めて多様なうえ、リン循環以外の生物的プロセス(炭素代謝など)とクロストークする場合も多いため、シーケンシング実験によって得られる微生物群集データとリン循環を結びつけるのは容易でない。我々はこの点を克服するため、微生物群集構造解析と一般的な土壌分析に加えて、ゲノム解析・単離培養実験などを組み合わせることで、リン循環を担う土壌微生物群集を明らかにすることを試みてきた。本発表ではその例として以下の2つの研究を紹介し、リン循環研究における群集構造解析の「使いどころ」について議論したい。

(1)黒ボク土畑土壌におけるホスファターゼ産生群集の解析(Microbes Environ. 2018. 33:282–289)

(2)根分泌物によるリン可溶化の促進(Eur J Soil Biol. 2020. 97:103169)

15:45 ー 16:10

宮本 裕美子 「森林生態系の外生菌根菌群集」

外生菌根菌は主に樹木の根に生息する真菌類で、樹木が光合成で作る炭素を吸収して生活している。一方で樹木はその成長に必要な養水分の大半を土壌中の菌根菌を介して吸収しているとされる。北半球では森林の主要構成樹木であるマツ科、ブナ科、カバノキ科、ヤナギ科、また熱帯ではフタバガキ科やマメ科などが外生菌根菌と共生関係を築いている。これまで世界中の森林で外生菌根菌の調査が行われ、その種の多様性が非常に高いことが明らかとなってきた。近年は特に地球規模で進む環境変動の観点から、広域・全球スケールでの種多様性機構や群集構造の解明が進んでいる。国内でも多くの研究者らの精力的な調査によって、外生菌根菌の塩基配列データが収集されてきた。本発表では、日本列島広域の解析を中心に、外生菌根菌群集と宿主樹木や気候との関係性について明らかになってきたことを紹介する。

16:10 ー 16:35

小泉 敬彦 「外生菌根菌の生態解明と機能理解に向けて」

生態系を取り巻く気候の変化が、生物の生態および群集構造にどのような影響をもたらすのか。この問いは、地球温暖化をはじめとしたグローバルな気候の変化が広く認知されるようになった現代において、より一層その重要性を増している。本発表にて取り上げる外生菌根菌は、森林樹木の生育を支える機能を担う共生微生物である。こうした野外での観察が難しい微生物であっても、DNA解析技術が普及したことによって、その生態を捉えることが格段に容易となった。それゆえ、より広範な地理スケールにおいてもデータを収集することが可能となり、気候と外生菌根菌の群集構造との関係性が次第に明らかになりつつある。本発表では、中でも主要な気候要素である「気温」に焦点を当て、それが外生菌根菌の生態および群集構造を決定づけるうえでいかに重要なファクターであるかについて論じる。併せて、外生菌根菌の生態および機能に関する新たな一面を探るためのアプローチについても紹介したい。

16:35 ー 17:00

龍見 史恵 「森林の窒素循環を駆動する土壌真菌・細菌群集」

近年、優占樹種の共生する菌根菌タイプの違いが森林の窒素循環を規定する要因であることが明らかとなり、大きな注目を集めている。外生菌根菌とアーバスキュラー菌根菌の間で窒素の獲得様式が異なることが、窒素循環に違いを生み出す要因だと考えられているが、詳しいメカニズムについてはまだ不明な点も多い。半乾燥地において、それぞれアーバスキュラー菌根菌共生樹種が優占する林分と、外生菌根菌共生樹種が優占する林分で、土壌の窒素の形態変化過程と各過程に関わる微生物群集の動態を調べたところ、外生菌根菌の影響により、土壌窒素循環の中でも特に硝化過程に大きな違いがあることが見えてきた。さらに、この土壌窒素動態の違いは、各林分に生育する下層木の窒素利用特性にも影響を与えていることが示唆された。関連研究についても紹介し、森林の土壌微生物群集がどのように形作られ、どのように物質循環機能を発揮しているのか、議論したい。

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